「タイム・リミット」 ----------------------------------------------------------------------  それは高校生活最後の冬休みを間近に控えた、12月のある夜のことだった。  唯はノドの渇きを感じて目が覚めた。部屋はまだ真っ暗だった。 (・・・いま何時だろ?)  家の中はしんと静まり返っていた。12月ともなると、家の中でもずいぶん 寒い。唯はジャンパーを羽織ると一階に下りた。  台所の明かりをつけると、台所のつづきになっているリビングのテーブルの 上のちょっと派手な表紙の雑誌が目についた。表紙には「週刊住宅ガイド」と あった。賃貸マンションや賃貸アパートなどの情報誌で、テレビでコマーシャ ルをやっているのを見たことがある。 (なんでこんな本があるんだろ?)  唯は疑問に思った。この家の誰もアパートを探さなければならない理由はな いからだ。 (お兄ちゃん、学校出たら独り暮らしでもするのかな?)  この手の情報誌を見たことがなかった唯は、興味にかられて手に取った。  ぱらぱらとページをめくると何箇所かページが折ってあることに気がついた。 そのページにはそれぞれ八十八町のアパートや賃貸マンションの情報があり、 いくつかの物件には赤いペンで丸がつけられていた。 (ふーん、このへんって結構高いんだ・・・)  印の付けられている物件は、いずれも1DKか2Kないし2DK、風呂付き で5万から10万の部屋だった。 (でもお兄ちゃんじゃないよね、だって八十八町で部屋を探す必要ないもんね ・・・じゃ、お母さんかな?お母さんも探さなくていいよね・・・??お客さ んの忘れ物かな?)  分厚い情報誌を元の場所に戻すと、唯は部屋に戻った。ベッドにもぐりこむ とすぐに深い眠りにおちた。なにか夢をみたような気がしたが、起きる頃には 夢をみたことさえ覚えていなかった。     §  §  §  翌朝、唯がリビングに下りてみると、ゆうべ見た住宅情報誌は見あたらなかっ た。唯は台所で朝食の支度をしている美佐子に訊ねた。 「ねえ、お母さん。ゆうべここに置いてあった本は?」 「何の本かしら?」 「週刊住宅なんとかっていう本」 「そんな本、知りませんよ。それより唯、りゅうのすけ君を起こしてきてくれ ない?」 「うん」 (じゃ、お兄ちゃんなのかな?でもお兄ちゃん、まだ寝てるんだよね?)  一応ノックはしたものの、起きていないのだから返事があるはずもない。唯 がりゅうのすけの部屋に入ったとき、りゅうのすけはまだ布団の中だった。目 覚まし時計は床に転がっている。きっと鳴った瞬間に(おそらくはずいぶんと 乱暴に)止められたに違いなかった。  唯はいつものように力一杯りゅうのすけの体をゆさぶった。 「お兄ちゃん、ほら、起きて」 「ん・・・なんだ・・・唯か・・・エアコンつけてくれ・・・寒い・・・」  りゅうのすけは、ねぼけた目をうっすらと開けただけだった。 「ほらぁ、もう起きないと遅刻だよ」 「うるさいなぁ、あと10分・・・」 「もう、お兄ちゃんったら・・・えいっ」  唯が布団の上からりゅうのすけに全身でのしかかる。さすがにこれはきいた らしい。 「うげ、重いよ」 「ぶー、唯、そんなに重くないもん」 「わかったわかった、起きればいいんだろ」 「早くしないと朝御飯食べられないよ」  のそのそと体を起こしたりゅうのすけが、じっと唯を見ながら言った。 「あのな唯、俺これから着替えるんだけどな・・・」 「あ、ごめんねお兄ちゃん」  唯はりゅうのすけの部屋を出ると後ろ手にドアを閉めた。 (本のこと、聞いてみようかな?)  唯はそのままりゅうのすけの部屋の前で待つことにした。部屋の中からは、 もぞもぞいう音と、おそらくベルトの金具だろう、かちゃかちゃと金属音が聞 こえる。すぐにりゅうのすけは部屋から出てきた。唯が部屋の前で待っていた のを見て、りゅうのすけは少し変な顔をした。 「なんだ唯、別に待ってなくてもいいのに」 「ねえ、お兄ちゃん・・・週刊住宅なんとかっていう本、知ってる?」 「なんだ、それ?」 「ゆうべリビングに置いてあったの」 「美佐子さんじゃないのか?」 「知らないって」 「ふーん、でも俺も知らないぞ」 (あれ?唯、夢でも見てたのかな・・・?)  考えてみれば、ゆうべ本当にリビングに下りたのかどうかすら定かではなかっ た。手に取ったときの雑誌の手触り、重みすら、まるでかなたの出来事のよう に思える。 「唯、何ぼーっとしてんだよ?朝飯食わないのか?」  階段の下からのりゅうのすけの声が唯を現実に引き戻した。 「あ・・・うん、今いくよ、お兄ちゃん」     §  §  §  そこは、まるで夕暮れ時のように明るくもなく暗くもなかった。妙に平面的 に見える町並みの中、気がつくと唯の目の前をりゅうのすけが歩いていた。 「あ、お兄ちゃんだ!」  不思議なことに走っても走っても距離が縮まらない。  やがてどれほど追いかけただろうか、唯は急に足が動かなくなり、勢いよく 転んでしまった。少しも痛くはなかったが、どうしたわけか悔しさが胸にこみ 上げた。  顔を上げると、いつの間にかりゅうのすけの隣にだれか女の子がいた。  誰かは分からない。りゅうのすけの顔ははっきりと見えるのに、その隣にい る女の子はぼやけて見えて、誰だかまるで分からない。誰だか分からないのに、 その女の子が幸せそうに笑っているのと、りゅうのすけの腕にその細くて白い 腕をからませているのが、やけにはっきりと見える。  知っているような知らない子のような・・・  追いかけようと思っても体が動かない。転んだままの姿勢から立ち上がるこ とができない。りゅうのすけはその女の子とどんどん遠くに行ってしまう。二 人の姿が小さくなる。  唯は大声で呼び止めようと思った。しかし呼び止めようと思ってもまるで声 が出ない・・・ (お兄ちゃん・・・!)  次の瞬間、あたりは真っ暗になった。よく見るとそこは真っ暗な自分の部屋 の中だった。 (夢・・・かぁ・・・)  夢からさめた唯の体は全身汗でびっしょりだった。体にはりついたパジャマ が気持ち悪い。汗をかいたからか、ひどく喉が乾いていた。たった今みた夢の ショックがまだ完全には抜けきっていない。頭が少し混乱していたが、とりあ えず夢でよかったと思った。  のどの渇きをいやそうと台所に下りかけた唯は、階下から明かりが漏れてい るのに気がついた。まだ誰か起きているのだろう、リビングに明かりが点いて いた。 (見つかっちゃいけない!)  なぜそう思ったのかは唯自身分からなかった。唯がそっとリビングを覗くと、 テーブルでは美佐子が何か本を見ながらメモを取っていた。壁の時計を見ると、 夜中の2時をすこしまわったところだった。 (お母さん、なにしてるんだろ?)  テーブルの本に目をやると、それはまさに昨夜見た住宅情報誌だった。 (あ!・・・じゃ、やっぱりあの本、お母さんだったんだ・・・)  唯は、どうして美佐子が情報誌のことを隠そうとしたのかと考えた。  しばらく息を殺して見ていると、美佐子は電話をかけ始めた。 (こんな夜中に、どこにかけてるんだろう?)  その答えはすぐにわかった。 「Hello, this is Misako Narusawa...」  こんな時間に外国に電話をかけるとなると、相手はりゅうのすけの父親しか 思い当たらない。 「こんばんは、美佐子です」 『・・・』 「・・・この間の話ですけど、やっぱり私たち、この家を出た方がいいんじゃ ないかと思うんです」 (お母さん・・・!?)  突然の話の内容に、聞き耳をたてていた唯は驚いた。美佐子からそんな話を ちらっとでも聞いた覚えはなかった。 「・・・あの子たちも卒業ですし・・・それを待ってここを出ますわ」 (卒業って・・・!)  唯は自分に残された時間があまりないことを知って愕然とした。もうじき冬 休みだから・・・あと4ヶ月?混乱し始めた頭で、じっと電話の声に耳をすま せた。 「私と唯はどこか近くにアパートでも見つけます。喫茶店も続けますし、りゅ うのすけ君の面倒はみますわ。ただ、別々に住むだけですから・・・」 『・・・』 「もう二人とも子供じゃないですし」 『・・・』 「いえ、そういう意味じゃなくて・・・」 『・・・』 「そこまでおっしゃるなら・・・もう少し考えてみますが・・・じゃあ」  美佐子は電話を切ると、テーブルの上を片づけはじめた。唯は聞いた話のシ ョックから、その場を動くことができず、美佐子の姿を目で追うしかなかった。 美佐子は住宅情報誌をソファの下に押し込んだ。唯に気づかれないように隠 そうとしてるのは明らかだった。  美佐子が明かりを消し、寝室に戻ってもなおしばらくの間、唯は動くことが できなかった。まるで動くことを忘れたかのようにその場に座り込んでいた。  やがて唯は喉が乾いているのも、じっとりと濡れたパジャマのことも忘れて 部屋に戻った。  ベッドにもぐり込んだものの、寝付けるはずもなかった。大粒の涙があふれ てきた。あふれる涙は止まらなかった。顔を枕に押しつけて、声を殺して泣い た。暗い部屋の中、唯の低くくぐもった泣き声が静かに響いた。 (お兄ちゃんと離れて暮らすの・・・?)  唯は一緒に暮らすようになって、たった今までそんなことを考えたこともな かった。  でも、りゅうのすけの気持ちが唯にはわからなかった。唯と同じようにりゅ うのすけも一緒に暮らしていたいと思ってくれるのか・・・。 (お兄ちゃんは唯と一緒にいるの、いやなんだよね・・・)  唯は、学校はもちろん、家の外でりゅうのすけに話しかけると、決まって後 からりゅうのすけに文句を言われていることを思い出した。あたりに誰もいな くても、何かしら文句を言われるか、いやな顔をされた。考えてみれば、最後 に家以外の場所でりゅうのすけとちゃんと話をしたのがいつだったのか、思い 出すこともできない。家の中でもあまり話をしなくなった。りゅうのすけの帰 りが遅いというのもあるが、なんとなく避けられているのは分かっていた。 (さっきの夢って・・・)  りゅうのすけは別居の話を知っているのだろうか?ひょっとすると、りゅう のすけは別居に賛成なのではないだろうか? (ひょっとして、知らないのは唯だけなの?)  唯はぺんぎんのぬいぐるみをたぐり寄せるとぎゅっと抱きしめた。ぬいぐる みは物言わぬ目で唯を見つめていた・・・     §  §  §  結局、唯はそのまま朝まで一睡もできなかった。  冬の遅い朝日が昇り、目覚まし時計がなった。ベルの音が頭に響く。 (学校・・・行かなきゃ・・・)  リボンを結ぼうと鏡を覗き込むと、泣きはらして真っ赤に腫れた目の下には、 くっきりとくまができていた。鏡の中の自分の顔を見ても、唯は別に驚かなかっ た。それどころではなかったから。機械的に手が動いて髪をまとめる。リボン を結ぶと少し落ち着いたような気がした。制服を着終える頃にはいつもの元気 な唯に戻っているように思えた。  階下に下りると、いつものように美佐子が朝の支度をしていた。 「おはよう・・・お母さん」  振り返った美佐子は唯の顔を見て驚いたようだった。 「どうしたの、唯。目が真っ赤よ。ほら、ちゃんと顔洗ってらっしゃい」  唯は、母の声を聞き、顔を見ているうちに無性に腹が立ってきた。唯にとっ ては美佐子が自分とりゅうのすけとを引き離そうとしているというだけで十分 だった。 「そんな顔してると、りゅうのすけ君びっくりするわよ」  その名を聞いて、唯は思わず美佐子をにらみつけた。 「何?こわい顔して」 「・・・何でもないよ・・・唯、朝ご飯いらない」 「どうしたの?唯」 「何でもないって言ってるでしょ!食べたくないの!・・・唯、もう学校行く から!」  そういうと、唯は階段を駆け上がり、カバンをひったくるようにつかむと、 そのまま玄関から飛び出した。  学校に着いたのは7時30分を少し過ぎた頃だった。始業までまだ1時間近 くあり、さすがに誰もまだ登校してはいなかった。一人きりの教室はやけに空 気が冷たかったが、そんなことは気にならなかった。  唯は、誰もいない3−Bの教室で、りゅうのすけの机を見つめていた。その うちに教室はいつものように朝の喧噪に包まれ始めたが、唯はじっと席に着い たまま、ゆうべのことを考えていた。     §  §  §  土曜日の授業は数学、音楽、生物、国語だった。今日の唯には放課後がやけ に遠く感じられた。  授業に身が入らないまま、3時間目までが過ぎた。3時間目の後の休み時間、 いずみと友美が唯のところにやってきた。 「なあ、唯、どうしたんだ?」 「朝から元気ないわよ」 「あ、いずみちゃん、友美ちゃん・・・」 「何かあったのか?」 「ううん、何にもないよ」 「私たちで相談に乗れること、あるかしら?」 「ううん・・・唯の問題だから・・・」 「そう・・・」 「ごめん、今、考え事してるから・・・一人にして・・・」  いずみも友美もそれ以上何も言わなかった。二人が心配してくれるのはわかっ ているが、だからといって相談にのってもらうようなことでもなかった。  いずみと友美が席に戻ってしばらくは静かだった。寝不足と空腹で肉体的な 疲労はかなりもののはずだったが、あまり気にはならなかった。ただ、りゅう のすけと朝から一度も言葉を交わせずにいることだけが唯の気分を重くしてい た。唯は、朝りゅうのすけを起こすのがこんなに大事なことだったのか、と改 めて思い知らされた。 「唯さん、いったいどうしたんですか?何か悩み事があるなら、この僕が相談 にのりますよ」  突然の声の主は西御寺だった。普段ならどうということもない、その優しそ うな口調が、今日は妙に唯の頭にキンキンと響いた。 「どうせあのアホが、また何かしでかしたんでしょう。まったくしょうのない 奴だ」  目の中が熱くなる。唯は、視界がほんの一瞬真っ赤に染まったような気がし た。気がつくと、唯は席を立っていた。西御寺があわてた顔で訊ねた。 「どこに行くんです?唯さん」 「トイレ」  そういって教室を出た唯だったが、別に用を足したかったわけではなかった。 反射的に口走っただけだったが、なんとなく足はトイレに向かった。戸を押し 開けて中にはいると、手洗い場の鏡に自分の顔が映っているのが見えた。腫れ たまぶたと目の下のくまは朝よりひどく見えた。しかも少し顔が赤い。風邪を ひいたのかもしれない。 (・・・ひどい顔・・・)  みんなに心配されるのも無理はない、唯はそのままでいるのが恥ずかしく思 えて、とりあえず顔を洗うことにした。水は冷たかったが、かえってその方が ありがたかった。蛇口から流れ出る冷たい水で顔を洗っていると、頭がすっき りするように思えた。  唯は顔をあげ、鏡を覗き込んだ。したたる水は、まるで泣いているかのよう だった。 (お兄ちゃん・・・) 「水が出っぱなしだぜ」  鏡に映った自分の姿を見ながらぼんやりとしているところに、不意に後ろか ら声がかけられた。驚いて振り返ると、いつの間にか洋子がいた。 「洋子ちゃん・・・」 「何ぼんやりしてたんだ?りゅうのすけのことでも考えてたんだろ?」  洋子が笑った。 (やめて!)  再び頭の中が赤熱する感覚におそわれる。怒りといらだちと不安がごちゃま ぜになって、唯自身、わけがわからなくなった。 「・・・違うもん!お・・・りゅうのすけ君のことじゃないもん!」  よほどの剣幕だったのか、洋子がすまなさそうな顔をする。 「ごめんな、そういうつもりじゃなくて・・・なんか悩みでもあるのか?」 「よく・・・わかんない・・・」 「悩んでても始まらないぜ。悩んでるヒマがあったら行動する!なっ?」 「うん、そうだね・・・ありがと、洋子ちゃん・・・」  次の瞬間、唯は不意に目の前が暗くなるような気がした。洋子が遠くから自 分を呼んでいる声が聞こえたような気がしたが、それもすぐに聞こえなくなっ た・・・     §  §  §  唯が目をあけると、そこは唯の部屋だった。カーテンが閉まってはいたが、 外は明るいようだ。学校のトイレで顔を洗い、洋子と話したところから先の記 憶がなかった。どうして自分の部屋で寝ているのか分からなかった。 (ひょっとして・・・夢だったのかな?) 「起きたのか?唯」  りゅうのすけの声がした。驚いて部屋の入り口を見ると、洗面器を持ったりゅ うのすけがいた。 「お兄ちゃん!」 「まったく・・・いきなり学校でぶっ倒れて・・・おかげで俺がおぶって家ま で連れてかえる羽目に・・・」 「唯、どうしたの?唯、学校で倒れたの?ほんとに?」 「ああ、洋子の目の前でぶっ倒れたんだよ。覚えてないのか?」 「うん・・・」 「ったく、しょうがねえな・・・ほら、ちゃんと横になってろ。今日が日曜で よかったぜ」  りゅうのすけは唯を寝かせて布団をかけ直すと、ぎこちない手つきでタオル を絞って唯の額にのせた。乱暴な口調とは裏腹の、その優しい仕草が唯にはう れしかった。 「まったく、なんだって寝不足で飯も食わずにあんな早くから教室にいたんだ よ?あれじゃ、風邪引いて当たり前だぞ・・・」 「ごめんね、お兄ちゃん」 「そうだ、薬もってきてやるよ。あと、腹が減ってるんなら、美佐子さんに何 か作ってもらってこようか?」 「ううん、いらない・・・お兄ちゃんがいてくれれば、それだけで唯は元気に なるよ」  言ったとたんに唯のおなかが「ぐう」と鳴った。二人は顔を見合わせて笑っ た。唯はりゅうのすけとこうして笑いあえるのがうれしかった。うれしくて、 涙がこみ上げてきた。 「あはは・・・笑い過ぎちゃって・・・涙が・・・」 「たまごのおかゆでいいな?」 「うん」  部屋を出ようとするりゅうのすけの背中を見た瞬間、唯は思わず声をかけた。 「お兄ちゃん!」  りゅうのすけが振り返る。 「あ・・・ありがとう」 「気にするなよ。ちゃんと寝てろよ、唯」 「うん」  唯が横になったのを見て、りゅうのすけは階下に下りていった。 (お兄ちゃん・・・やっぱりやさしいな・・・) 洋子の言葉が脳裏に甦る。 『悩んでるヒマがあったら行動する!』  洋子に言われて、はっきりとわかったことが1つあった。今まで、唯からりゅ うのすけに好きだと言ったことがないということ。 (もし別れて住むことになっても・・・会えないってわけじゃないし)  そう考えると、急に気が楽になった。ずっとひとつ屋根の下に住んでいたか ら・・・人にいろいろと言われていたから・・・意識しすぎていたのかもしれ ない。  唯は自分のりゅうのすけへの気持ちをはっきりと自覚した。それは今まで自 分自身で心の奥底に沈め、抑えていた気持ちだった。しかしその気持ちに気づ いてしまった以上、そしてそれを自分が求めていることを知ってしまった以上、 想いを止めることなど出来はしなかった。 (お兄ちゃんに伝えよう、唯はお兄ちゃんのことが好きなんだよ!って)  最後の冬休みはもう目の前だった。 〜FIN〜