「唯・光の中で」 ---------------------------------------------------------------------- 「唯ちゃん、とってもきれいよ」  桜子は唯のウェディングドレス姿を見て言った。唯は女の桜子の目にも美し く見える。 「ありがとう。桜子ちゃん」  りゅうのすけと桜子の愛が真剣なことを知ったのは高校を卒業してすぐだっ た。二人の関係をはじめて知らされた晩はただ泣き明かした唯だったが、看護 学校での寮生活は唯に心の整理にじゅうぶんな時間だった。看護学校を卒業す るまでにはりゅうのすけと桜子のことを許せるようになっていた。そして今日 、唯は結婚する。相手は同い年の医療機器メーカーの技術者で水上多岐という 男だ。 「桜子ちゃん、お兄ちゃんのこと、お願いね」 「うん」 「唯,準備できたか?」  りゅうのすけが控え室のドアを開けると、ウェディングドレス姿の唯がぱた ぱたと走り寄ってくる。 「お兄ちゃん!見て見てっ!!」 「ああ・・・とってもきれいだよ」  純白のウェディングドレスを着た唯は、それまでりゅうのすけが見てきたな かでいちばんきれいだった。 「お兄ちゃんがそういってくれると、唯、うれしいよ」  二人はすこしのあいだ無言で見つめあっていたが、やがてりゅうのすけがぼ そっと言った。 「結局、唯が先に結婚しちゃったな」 「でもお兄ちゃんには桜子ちゃんがいるじゃない。あんまり待たせちゃだめだ よ」 「わかってる・・・」  やがて式が始まり、唯は新郎の多岐とならんで座っている。式にはいずみや 友美、あきらといったなつかしい顔触れがならんでいた。あきらはりゅうのす けに懇願されて冠婚葬祭用の柔道着ではなくふつうのタキシードを来ていたが 、いかにも居心地悪げにもぞもぞとしていた。  唯と多岐がこじんまりとした式を希望したこともあり、友人と近い親戚だけ のほんとうにあたたかな式だった。     §  §  §  式も終わり、来賓の送りだしも一段落したロビーにはごく身近な友人と家族 だけが残っていた。 「多岐さん,唯のこと頼むな」 「はい,兄さん」 「きみまで兄さんって呼ぶことはないさ。知ってのとおりなんだからさ」 「はは,でも唯もそう呼んでますから」 「そうだな」  りゅうのすけが多岐と話しているところに唯が駆け寄ってきた。 「お兄ちゃん・・・おにいちゃぁぁん!」 唯はりゅうのすけの胸に飛び込んでいった。大粒の涙をこぼしながら。 「こ、こら、抱きつく相手が違うぞ、唯・・・」  りゅうのすけは言葉と裏腹の抱きしめたくなる気持ちを抑えてじっと唯を見 つめた。 「唯,お兄ちゃんに負けないくらいしあわせになるからね・・・」 「ああ・・・」 「お兄ちゃん・・・」 「もう泣くなよ、唯・・・」 「だって・・・泣くのはお兄ちゃんだからだよ。多岐さんだったら泣かないも ん・・・」  しばらくして泣きやんだ唯が顔をあげた。  りゅうのすけは唯をじっと見つめながらぽつりと言った。 「幸せになれよな・・・」 「うん」  唯は涙をぬぐって多岐に寄り添うと、その腕を絡めた。 「お兄ちゃん、ありがとう」 〜FIN〜