「ふっふっふっ・・・奴らの魔宝を奪い取る画期的な作戦を思いついたぞ」
昼食を終えたカイルが、パーティのメンバー、リラ、キャラット、若葉に向
かっておもむろに切り出した。
「はいはい。聞いてあげるわよ」
リラが、またか、というような顔つきで答えた。
「ハイは一回だ!いつも言ってるだろう」
「はいはい・・・だから何?」
あくまで投げやりなリラに、カイルはむっとした表情を浮かべた。
「このくそアマぁ・・・まあいい、聞いて驚け」
「うひゃああ!」
「まだ何も言ってない!くだらんお約束をやってんじゃねぇ!」
「うるさいわね。ならさっさと言いなさいよ」
カイルはひとしきり高笑いしてから『作戦』を説明しはじめた。
「リュウイチを色仕掛けでたぶらかし、メロメロのドロドロの愛欲の虜にし
て、やつに持つ魔宝を貢がせるのだ。うーん、なんて完璧な作戦なんだ・・・
オレはやはり天才と呼ぶにふさわしい・・・」
「ばっかじゃないの?」
すかさずリラがつっこみを入れる。
「で、色仕掛けとは、具体的にはどのようなことをすればよろしいのでしょ
うか?」
若葉が聞いた。
カイルはふと周りを見回して愕然とした。
「し、しまったぁ!オレのパーティには色気ゼロの男女とお子ちゃまとウサ
ギしかいないぃぃ!」
「失礼ね、誰が男女よ!」
「あのぉ・・・お子ちゃまとはわたしのことでしょうか?」
「ボク、うさぎじゃないよぉ!」
反論する3人をじっと見渡してカイルがぼそりとつぶやいた。
「なんだお前ら・・・自覚あるんじゃないか」
口は災いの元とはよく言ったものである。
「ぶんなぐるわよ!」
「ボクだって!」
「お覚悟!」
三人の一斉攻撃をうけたカイルは、その場にばったりと倒れた。
「文句言うなら自分でやりなさいよ。さ、行きましょ、若葉、キャラット」
「畜生・・・オレはリーダーだ・・・ぞ・・・」
§ § §
その日、メイヤーと主人公は一緒に本屋で店番のアルバイトをしていた。
もうじきバイトも終わるという夕方のことだった。二人が本の整理をしてい
ると、不意にメイヤーが入り口を指さした。
「リュウイチさん!あれ!」
「げ!カイル・・・いま超貧乏なのに・・・」
カイルはいつものように邪魔を始めるかと思いきや、入り口でばったりと倒
れてしまった。倒れたカイルをじっと見ながら、メイヤーがいぶかしげに言っ
た。
「おや?新手の嫌がらせでしょうか?」
「かもしれない・・・うーん、ピクリとも動かないな。おい、カイル!」
リュウイチとメイヤーがカイルに近づいてみると、誰にやられたのか、全身
ぼろぼろだった。
「辻斬り・・・でしょうか?」
(メイヤー、歴史好きと歴史小説マニアは違うぞ・・・)
何にせよ、このまま入り口に転がしておくわけにもいかなかったので、リュ
ウイチはカイルに肩を貸すようにしながら起こした。
「メイヤー、ちょっと店番頼むわ。こいつを何とかしないと・・・」
「そうですね。こんなのが倒れてたらお客さんが怖がって入って来ませんか
らね」
「まったくだ・・・じゃ、店よろしく」
リュウイチは宿に戻ることも考えたが、ちょっと距離がありすぎた。近くに
公園があったのを思い出すと、そこにカイルを運んだ。
日の暮れかかった公園には人はほとんどいなかったが、どこに限らず、魔族
はあまり歓迎されない。リュウイチはカイルを人目に付かない植え込みの陰に
寝かせた。
カイルは意識を取り戻すと、苦しそうにうめき声を上げた。
「どうしたんだよ、その傷は」
「や、やかましい・・・ちょっと、うちの女どもに・・・」
「しょうがねぇなあ」
リュウイチは手のひらをカイルの手に重ねると、回復呪文を唱えた。一度で
は回復しきらず、二度三度と呪文を唱えなければならなかった。
カイルが居心地悪そうにもぞもぞと動く。
「ほら、けが人はじっとしてろよ」
「うるさい!オレに命令するな」
「・・・なんか、変なのな・・・」
「何がだ」
「お前ってさ、手、暖かいのな。魔族だから冷たいのかと思ってた・・・」
「ふん、血も涙もないとでも思ってたのか?」
「ま、そんなとこだ」
「あいにくだな。ちゃんと血も流れてるし・・・」
カイルの言葉に、リュウイチはくすっと笑った。
「泣くこともあるのか?」
リュウイチは、急にカイルへの親近感が高まっていくのを感じていた。魔族
という恐ろしげな響きとは裏腹なカイルの人間味が、リュウイチの心をとらえ
はじめていた。
「あ、あるわけないだろう、このオレが!」
「まあ、そういうことにしておいてやるよ」
リュウイチは改めてカイルをしげしげと見つめた。カイルもまた、リュウイ
チをじっと見つめていた。そんなカイルを見ながら、リュウイチはなぜだか耳
が熱くなるような変な感じがした。
「・・・」
「リュウイチ、お前がいけないんだぜ」
「何がだよ」
「お前がそんな目でオレを・・・見るから・・・」
そう言うとカイルは、突然リュウイチを押し倒してくちびるを重ねてきた。
「や、やめ・・・むぅ・・・ん・・・」
はじめのうちリュウイチは、カイルを押しのけようともがいたが、力はカイ
ルの方が上だった。
カイルをはねのけることができないまま、しばらくくちびるを重ねているう
ちに、リュウイチは自分の中にカイルを受け入れる気持ちが芽生えているのに
気がついた。
リュウイチがおずおずとくちびるを開くと、カイルの舌がゆっくりと入って
きた。
「ん・・・は・・・」
カイルはくちびるを重ねたまま、ゆっくりと一枚一枚リュウイチの服を脱が
せていく。
肌をなぞるカイルの指先に、リュウイチがピクリと反応する。
長いキスのあと、カイルがゆっくりと体を起こした。
「重いよ、カイル・・・」
「あ、悪い・・・」
(くすくす)
「何だよ」
「いや、カイルが謝るなんて珍しいなって・・・さ」
「ふん。まあいい、重くないようにしてやるよ」
そう言うと、カイルはリュウイチの手を導いて四つん這いにさせた。
「なんか恥ずかしいぞ、この格好・・・」
「黙ってろ」
カイルは短いキスを繰り返しながら、リュウイチにおおいかぶさるようにカ
イル自身をあてがった。
「ん・・・」
「痛いか?」
「・・・だいじょうぶ・・・だから、来ていいぜ」
「泣きが入っても、やめてやらねぇからな」
そう言うと、カイルがぐっとリュウイチに入ってきた。
「んん!」
リュウイチは初めて体験する異物感に思わず声を漏らした。
「へへっ、ずいぶんすんなり入るじゃないか・・・」
カイルの言葉に、リュウイチは顔を真っ赤にしたが、おなかの中をかき回さ
れる感覚に耐えるのに必死で、反論する余裕はなかった。
カイルがぐいぐいとリュウイチを責め立てる。リュウイチは、カイルにされ
るがままになっていた。
「カイル・・・苦しいよぉ・・・」
「ふん、お前のだってこんなに熱いじゃねえか。本当は気持ちいいんだろ?
」
「・・・ばか・・・」
カイルに握られて、それでなくてもはち切れそうになっていたソレは、ます
ます熱く脈打っている。
「あ、こら・・・あんまり強く握るなよ・・・」
「いいからイッちまえよ、オレももうすぐ・・・」
「んっ・・・カイル、カイルぅ!」
「うっ」
:
:
リュウイチがふぅと深い息をついて、あたりを見回すと、すっかり日が暮れ
て闇に包まれていた。
「もう、戻らなきゃ・・・」
「そうか・・・」
二人は言葉少なに服装を整えた。
別れ際にキスをした。やさしくくちびるを合わせるだけの暖かなキスをした
。
§ § §
宿に戻ったカイルは、パーティのメンバーを集めた。
「お前らに、いい知らせと悪い知らせがある。どっちから聞きたい?」
「いい方からお聞きしたいですわ」
若葉が無邪気に答えた。
カイルがふんぞり返りながら言った。
「ふがいないお前らの代わりに、オレがリュウイチを手なづけた」
「・・・あんた、まさか・・・色仕掛け、本当にやったの?」
愕然とするリラ。
「あの、色仕掛けとはどのようなことをなさるのでしょう?」
若葉が不思議そうに首を傾げる。キャラットも、驚いたまま凍り付いている
リラを、わけがわからない、というふうに見つめた。
ようやくリラが立ち直って口を開いた。
「じゃあ、悪い知らせって何よ」
「今後、あいつの魔宝集めに協力することになった」
「だぁ!アンタがたらし込まれてどうすんのよ!」
「ふん、人聞きの悪いことを言うな」
「・・・この役立たずのくそバカイル・・・」
(ポロロン)
「いえいえ、ばっちり役に立ったからこそ、こうなったわけですよ」
「ロクサーヌ!・・・あんた、ちょっと下品・・・」
「まあまあ、これでみなさんの貞操も安全ということで、よかったじゃない
ですか。では、カイルさんとリュウイチさんの未来を祝福する歌を作らなけれ
ばなりませんね」
ロクサーヌがリュートをつまびきながら楽しそうに言った。
「それだけは止めて・・・わたしらまで変な目で見られてしまう・・・」
リラが心底イヤそうな顔でロクサーヌに釘をさした。
「おや?そうですか。うーん、せっかくいいフレーズが浮かんだんですが・
・・ではとりあえずレミットさんにだけでもお聞かせしましょうか」
「だから止めろっての!」
しかし、三日の後にロクサーヌはアヤしげな歌を完成させ、七日の後にはレ
ミットのパーティに事と次第が知れてしまうのだった・・・
〜Fin〜