リュウイチたちのパーティは今日も野宿である。
「あの、今日の夕食、何にします?」
ウェンディが荷物をほどきながら、そばにいるリュウイチに聞いた。
「何でもいいよ」
さらりと答えたリュウイチは数秒後、その答えを悔やむこととなる。
「え゛?・・・ひどいです、リュウイチさん・・・まじめに考えてくれないな
んて・・・そうやってわたしをバカにして・・・」
ウェンディは泣きそうな目で、たまたま(?)手にしていた包丁をぎゅっっ
っ
と握りしめリュウイチににじり寄った。リュウイチは(ちゃららーん)というBGM
が聞こえたような気がした。
「ま、まて、ごめん、悪かった!」
冷たく光る刃を喉元に押し当てられたリュウイチは、まじめに考えることに
した。
「あ、う、あー、そ・・・そうだな、そろそろ鍋物が恋しくなる季節だよね
」
「鍋物ですね?まかせてください。るん」
ウェンディの声がぱっと明るくなる。
(ウェンディ・・・実は君、石野○子なんじゃないか?)
トントントンと小気味よい音を立てながら、ウェンディが具の準備をしてい
る。リュウイチは包丁とまな板の立てるリズミカルな音に、いつの間にか眠り
に引き込まれていた。その時だった。
「ヒート・シャワー!」
ウェンディの声とともに、爆音があたりに轟いた。リュウイチは飛び起きる
と、剣に手を伸ばした。ヒート・シャワーの余熱がリュウイチの顔をあぶる。
「ど、どうした!?」
「え?」
ウェンディは何もないところに向かってヒート・シャワーを唱えていた。あ
たりは焼け野原である。
「ほら、こうやって焼けた石を鍋の中に入れるとすぐに煮えるんですよ」
(ウェンディ・・・実は君、日本海側の生まれなんじゃないか?)
(ポロロン)
夕食になると現れるロクサーヌであった。
「ほう、これはこれは・・・」
「ロクサーヌさんもいかがです?」
「美味しそうですね。もちろんいただきますよ」
「ロクサーヌ、あんたねぇ、たまにはカイルやレミットのところでご飯食べ
たらどうなの?」
フィリィのつっこみが入る。
「いえいえ、カイルさんのところでは朝食、レミットさんのところでは午後
のお茶をいただいてますから」
「やれやれ」
「何か、おっしゃいましたか?」
「いや、何でもない・・・」
まあ、そんなこんなでようやく食事の準備が整って、夕食タイムである。
どういうわけか、味ポンと大根おろしまで用意されている。
(ウェンディ・・・実は君、西○敏行なんじゃないか?)
しかしリュウイチは、久しぶりの鍋という事で、ありがたく味ポンとおろし
で頂くことにした。異世界で食べる鍋は、元の世界に負けず劣らず美味しかっ
た。
「リュウイチさん、美味しいですか?」
「うん、とっても美味しいよ。さすがはウェンディだな」
「よかった・・・」
熱いものが苦手なのか、キャラットはふーふーしながら食べていた。見ると
、
ほっぺにご飯粒をつけている。
「キャラット、ほっぺにおべんと、ついてるよ」
「え?どこどこ?」
「とってあげる」
リュウイチはキャラットのほっぺからご飯粒をとると、ひょいっと自分の口
にほおりこんだ。キャラットが笑いながらリュウイチをつつく。
「リュウイチさんったらぁ!」
「あはは、いいじゃないか」
リュウイチとキャラットがらぶらぶな雰囲気を振りまいていると、どんより
とした気配が背後からただよってきた。ウェンディである。
「ひどいです・・・」
「げ・・・な、何?」
「あの夜、『君だけだよ・・・』とか言って私のくちびるを奪って、あまつ
さえ初めてだった私に口では言えないようなことを何度も何度もしておきなが
ら・・・うさちゃんに浮気するなんてぇぇぇ・・・」
言いながらウェンディは、ヒートシャワーの焼けた石を火ばさみでつかんで
はリュウイチに投げつける。
「あ、あぶないってば!」
ウェンディの言葉に、メイヤーとキャラットの冷たい視線がリュウイチに刺
さる。
「リュウイチさん、ひどいです・・・遊びだったんですね」
「ひどぉい!」
「浮気者は女の敵ですね」
「そんなこと言ってないし、やってないだろぉが!」
リュウイチの反論を聞くものはいなかった。こうなると、男は弱い。
(ポロロン)
「リュウイチさんの歌を思いつきましたよ。『うわきーもののー、おんなー
たらしでー・・・』」
「歌うな!」
「そうですね。レミットさんやカイルさんにも、ぜひこの歌をお聴かせしな
ければ」
「せんでいいっっっ!」
・
・
・
次の日から他のパーティの攻撃がリュウイチに集中するようになったのは言
うまでもない・・・
〜Fin〜